百合入門者に、まず最初に薦めるべき作品は何か?

百合入門者に対して、あなたはまずどの作品を薦めるだろうか?

 そこで間違っても「桜Trickがおススメだよ』と言ってはいけない。これでは、「何か小説を布教して!」と言われて『花と蛇』を薦めるようなもので、要するに、「百合=全部桜Trick」だと思われてしまうと、その後の彼/彼女の百合的成長が非常に極端なものになりかねない。
 なにより、いたいけな百合入門者クンがあのような過激作品(諸説あり)を見たら最後、生理的拒否反応からトラウマを植え付けてしまうかもしれない。


 私が薦めるのは、ずばり、なもり大先生作の、『ゆるゆり』、で、ある。
 
 ありきたり過ぎる?いや、しょうがない。だって、これほど百合入門として相応しい作品って、たぶん他に無いのだ。本当に。だから「ありきたり」たりえるのだろうし。
 まあ取り敢えず結論を言ったところで、なぜ『ゆるゆり』なのか、その理由を述べていこう。

 まず、『ゆるゆり』が女×女の多様な関係性について描いている、ということ。これが最初にして最大の理由になる。

 百合入門者は、この百合世界のことについて、右も左もわかっていない。ただ漠然と「百合の強い人になりたいなぁ」と思っているだけ。「尊い」もまだ経験していない。自分の好きなジャンルもわからない。
ならば、百合入門者にしてもらうべきなのは何か?
それは、「この百合世界にはいったいどういったジャンルがあるのか?尊いとは何か?」を理解してもらうことに他ならない。
 幼馴染百合、学生百合、社会人百合、歳の差百合、吸血鬼、異世界転生、おねロリ、ライバル、日常非日常、先輩後輩…非常に多くのジャンルがこの百合世界にはある。
 そういった「百合のジャンル」をまず提示し、個別のジャンルがいったいどのような百合を描くものなのか、それを理解して、どのジャンルを自分が好きなのか気付いてもらうのが一番重要なのだ。
 そしてその点において、『ゆるゆり』以上に優れた作品というのは、他に無い。
 京子×結衣の幼馴染百合、櫻子×向日葵の喧嘩っぷる百合、綾乃×京子の片想い百合、綾乃×千歳の親友百合、ちなつ×あかりで変態百合(?)…松本りせ×西垣先生で歳の差百合、というのもある。しかも、それぞれのカップルについて非常に尊い描写が施されており、もう単純にレベルが高い。
 繰り返すが、百合の入門段階においては、関係性百合の多様さと、それぞれを自分が尊いと思うか、思わないか。それをまず知ってもらうことこそが、最も重要なことなのだ!それで、「幼馴染百合が気に入ったな」となれば、幼馴染について描いた別の作品を薦めてやればいいわけで。
 百合の尊さを知ってもらう、ジャンルを知ってもらう、引いては、自分が何を尊いと思うかを知ってもらう。それが脱入門への最短かつ最善のルートではなかろうか。そして『ゆるゆり』こそがそのルートを進むための地図足りえるのではなかろうか。

 余談だが、百合入門者に対して『私は君を泣かせたい』とか『安達としまむら』といった女×女の二物関係にのみ注目した作品を薦めるような人間を、私は全くもって信用していない。
 それらの作品を読んで「尊い!」を知ってもらえたなら良いだろう。しかしもしも、それらの作品を読んでも彼/彼女の「尊い!」アンテナが反応しなかったとしたら?「百合ってつまらないな」と思わせてしまったら?日本には百合以外の娯楽はごまんとある。その中からわざわざ百合に興味を持ってくれた人をそういう風に思わせてしまったら、もう本当にもったいないことこの上ない。たまたま作品が描く女×女の関係性がその人に作用しなかっただけで、「尊い!」と思える作品は、ジャンルは、他の場所にあったのかもしれないのに。
 「おススメは?」と言われて相手の事情なんかまったく考えずに自分の好きな本を推してしまうのは、オタクが典型的に陥りがちなミスである。お前の「好き」と相手の「好き」は別だ。
 ちなみに『私は君を泣かせたい』も『安達としまむら』も私が好んで止まない作品であって、これらを中傷する意図はまったくもって無い。

 次に、二次創作が豊富であること。
 『ゆるゆり』は作品の性質上「ゆるーく百合を描く」、すなわち「ガチ百合」とか「恋愛関係」に発展するということが無い(一期五話を除く)。もちろんそれゆえに、入門者にとっても受け入れやすく、わかりやすい作品になっていることは事実だ。しかし一方で大部分の「百合作品(そもそも百合作品なるものを定義する必要性があるかという問題は置いておいて)」よりはだいぶ柔らかく、マイルドな百合を描いていることもまた事実だろう(一期五話を除く)。もしかすると、『ゆるゆり』本編の百合だけでは物足りない!結京ケッコンしろ!…という有望な入門者が出てくるかもしれない。
 そこで役立ってくるのがまさに、『ゆるゆり』の豊富な二次創作なわけだ。Pixivで『ゆるゆり』タグのついたイラストの数は26003件、ss(サイドストーリー)も3267件存在する。『ゆるゆり』を読んで/見てお気に入りのカップリングを見つけたら、Pixivやその他の媒体で検索すればよいだろう。必ずや、その「物足りなさ」はある程度まで解消されるだろう。
 このことが同時に、百合作品の二次創作に触れる絶好の機会になることは、言うまでもない。

 長くなったがまとめると、百合入門者にまず薦めるべき作品は、
① 百合のジャンルを理解してもらえる作品であって
② 同時に豊富な二次創作を有する作品で、
③ かつ単純に尊い作品

であって、その条件を満たすものとしては『ゆるゆり』の右に出るものは無い、ということだ。
 まあ、③に関しては完全に私の主観が入ってしまっているのだが。