二郎系ルポ。
前々から食べてみたかった「二郎系ラーメン」を初めて食べに行くなどした。
お店は大学から徒歩十分ほどの場所にある「千里眼」。twitterでも定期的に「千里眼!千里眼!完飲!」と鳴き声を発する限界民がたくさんいたので、なら行ってみようじゃないか、と。
引き戸を開けると、席は満席で待機する人も二三人、ちらほら。私が到着したのはまだ午後五時ごろだったのにもう満席とは、この店の人気うかがえるなぁ、と。客層は授業を終えた大学生から、近くの工事現場で働いているらしい出で立ちのガタイの良い青年、はたまた、いかにも「それらしい」出で立ちの二郎系オタク風なオジサマまで。男性が多いが、店内には女性の二人組もいたし、途中からカップルで入店する人もいた。以外とそこまでクローズドな雰囲気は無いな、というのが第一印象。食券を買い列に並ぶ。
とはいえ、待機列に並んで早々、第一関門が待っている。
「お待ちのお客様麺の量どうされますか?」
来た。ここで返答に詰まってはいけない。客席は十二席。そして自分を除いた十一名は、おおよそこの店のいわば「経験者」。ここでスキを見せてしまえば、「右も左もわかってないオオズブのトーシロが来ちまったよ・・・」と哀れみと苛立ちの視線を突き刺してくるのは明白である。
しかし、
「普通で」
静かに答える。
天下の東大生は予習復習を決して怠らない。
この質問はすでに「学習済み」だ。「千里眼 コール」「千里眼 初心者」「千里眼 怖い」の文字列は、液晶に穴が開くくらい何度も検索した。
対策に抜かりはないのだ。そして次の質問は、、、
「十番のお客様ニンニクトッピングどうされますか?」
おっと、別の席だ。
ここでふっと息をなでおろす。緊張のし過ぎもよくない。
とはいえ、頭の中では用意していた解答を何度も何度も繰り返す。「ニンニク辛揚げで。」「ニンニク辛揚げで。」そう。「マシマシ」「ゼンブノセ」に手を出すのはまだ早い。あれは上級者だけが繰り出せる、いわば「必殺の呪文」。唱えたが最後、半径五メートルの飲食者は無条件に肉食系マウントを取られざるを得なくなる。しかしその威力ゆえにある程度のスキルが無いと使いこなすのは至難の業。今の私では「MPがたりない!!」
とあれこれ考えていると、何だか先ほどの席の人がごたごたし始めている。
「ニンニクトッピングどうされますか?」
「ニンニク、味玉、辛揚げ・・・」
「そちらの食券ですと対応していませんが」
「えっ・・?あッ・・・!!」
バカめ。予習復習を怠った罰だ。
顔には出さずとも、心の中でほくそ笑む。
思えば受験の時もそうだった。
「こんな問題解けないよー・・・」
そういう問題に限って問題集に乗っている。
でもそれは敢えて指摘せずに、自分を点数を上げることだけに集中する。
受験期に感じた優越感を脳内でリフレインする。
私はあの人とは違う。
日頃の鍛錬を怠らず、野性的な勘と地道な日々の予習復習で、勝利を掴む。
「ニンニクトッピングどうしますか?」
そして、
「ニンニク辛揚げで」
私は今日も「勝利」する。
「別の席」の彼が膝から崩れ落ちるその軌跡を、脳内に思い浮かべた。
ラーメンは普通においしかったですね
こう、どんぶりにがぶり付く感じ。いままで私はラーメンを「食べて」しかこなかったんだなぁと。ラーメンを感じることもできるんだなぁ、と。
「残したら殺される」と耳に挟んで少し怖かったけど、やっぱりあそこまで美味しいからみんな残さず食べられるんですよね。
ただ麺の量を普通にしたのは失敗だった。食べ過ぎで今もちょっと気持ち悪い。
でも満足。となりのおっさんがビール片手に野菜マシマシ完飲してた。
よきこと。ごちそうさまでした。
そのあと『あさがおと加瀬さん』を見て一気に甘いきもちになったのは別の話。